世界でもトップクラスのクラブが加盟するイタリア・セリエA。
一見、選手を自由に獲得できるように思われがちですが、実はクラブがシーズン中に登録できる選手には、複雑で厳しいルールが複数かかっています。
特に注目されるのが、「登録人数の上限」「ホームグロウン枠(育成選手義務)」「外国人枠の制限」「若手選手登録(リスト B)」といった制度です。
本稿では、これらの制度を具体的な例や背景を交えて丁寧に解説し、クラブ運営・補強戦略にどのような影響を与えているかまで掘り下げます。
1. 登録人数の上限とリスト B の意味
登録枠 25 名(リスト A)
セリエAのクラブは、シーズンごとに最大 25 名 をトップチームの選手として「リスト A」に登録できます。
この 25 名枠はクラブにとって基本的な戦力構成の枠組みであり、補強・ローテーション戦略に直結します。
ただし、21 歳以下の若手選手は別枠扱いの 「リスト B」 に登録できる制度があり、この リスト B の選手は 25 名枠に含まれません。
つまり、若手が順調に育てば、クラブは 25 名枠+α の戦力を持てることになります。
この制度は、クラブにとってユース育成を促すインセンティブとなり、若手選手にとってトップチームとの接点を持ちやすくするものです。
2. 登録枠の内訳:ホームグロウン枠(育成枠)の義務
リスト A の 25 名枠には、最低 8 名の「ホームグロウン(育成選手)」 を含むことが義務付けられています。
この 8 名はさらに以下の 2 つの枠に分けられます:
- クラブ育成枠(Club-Trained Players):最低 4 名
→ 「15 歳~21 歳の間に少なくとも 3 シーズン以上、そのクラブに所属して育成された選手」を指します。
→ つまり、ユースアカデミー出身者や長期在籍者が対象。 - 国内育成枠(Association-Trained Players):最低 4 名
→ 「15 歳~21 歳の間に少なくとも 3 シーズン以上、イタリア国内リーグシステムで育成された選手」を指します。
→ 他クラブのユース組織から移籍してきた選手でも、イタリア育成歴があれば該当するケースがあります。
このように、クラブに「自前育成」または「国内育成」選手の起用を義務付けることで、ユース育成が軽視されることを防ぎ、長期的には選手育成の底上げを目指す制度です。
具体例として、あるクラブが 25 名枠を満たそうとするとき、育成枠を満たすために、ユース出身者や国内育成者を戦力として使う必要があります。
これはクラブが有望な若手を外部補強より優先して育成路線を取る動機付けになります。
3. 外国人枠(EU外選手の制限)
セリエA には、EU 外国人選手(EU 加盟国以外の選手)に対して 一定の制限 が設けられています。主なルールは以下の通りです:
- 各クラブは、シーズンごとに新たに獲得できる EU 外選手を最大 2 名まで とする制限。
- ただし、過去に EU 外選手を他クラブに売却している場合、その分の枠が“空き”として補強に使えるケースもある。
- EU 加盟国出身の選手には制限がない(自由に獲得可能)。
このような制約により、クラブは外国人補強に慎重にならざるを得ません。
また、南米やアフリカの選手を獲得する際には、EU パスポート取得や帰化可能な選手を狙う戦略もみられます。
例えば、ブラジル出身の有望若手がイタリアで4年以上プレーして EU パスポートを得るケースもあり、そうすると「EU 外枠」を使わずに登録可能になります。このような戦略的補強が行われるのも特徴の一つです。
4. 若手選手登録:リスト B の活用
リスト B は、21 歳以下の若手選手に対して、別枠登録 が認められる制度です。主な特徴は次の通り:
- リスト B 登録の選手は、25 名のリスト A に含まれないため、クラブは若手を追加戦力として使いやすい。
- 要件として、一定期間そのクラブまたは国内リーグに所属していた条件を満たさなければなりません。
- 若手選手にとって、トップチームとの交わりを得やすくなる制度であり、移籍市場の穴埋め要員としても重要な存在です。
このリスト B 制度の存在は、クラブにとってはリスクヘッジとしても機能します。主戦力の怪我やローテーション時に、若手を登用しやすい制度設計となっているのです。
5. ルールの意義とクラブ戦略への影響
これら登録ルールは単なる制度ではなく、クラブの補強戦略や育成方針に大きな影響を与えます。
育成を促す設計
育成枠義務とリスト B 制度は、クラブにユース育成の投資を促す設計になっています。
将来性ある若手を育ててトップチームに送り込むことが、クラブの安定戦略になりうるわけです。
外国人補強の制約
EU 外国人枠の制限により、クラブは補強時に“枠の空き”“国籍切り替え”“パスポート保有選手”を意識する必要があります。
そのため、獲得戦略は単に実力だけでなく国籍・育成年数・将来性などを含めた総合的判断が求められます。
柔軟な戦力構成
リスト B 制度により、若手をトップチームで使いやすくなる一方で、勝負どころでは経験ある主力を投入する構成も可能です。
若手とベテランの融合が、クラブの差別化戦略になり得ます。
6. よくある疑問と解説
Q1:25 名枠+リスト B で何人登録できる?
A:25 名のリスト A に加えて、リスト B の若手選手を複数追加可能。
仮に 5 人の若手が条件を満たしていれば、合計で 30 人以上が登録可能になる場合もあります。
Q2:EU 内選手に制限はあるの?
A:EU 加盟国出身の選手には基本的に登録制限はなく、獲得・登録が自由です。
Q3:クラブを移籍してきた若手もリスト B 対象になる?
A:条件を満たしていれば可能。例えば、ある選手が他クラブのユースで数年間在籍していたなら、その実績が認められるケースがあります。
まとめ
セリエA における選手登録制度は、クラブ運営と育成戦略に直結する非常に重要な要素です。
- 登録枠 25 名+リスト B
- 育成枠義務(クラブ育成 + 国内育成)
- EU 外選手枠の制限
- 若手登録リスト B の活用
これらの制度により、クラブはユース育成を重視せざるを得ない構造となっています。
補強は実力だけでなく国籍・育成歴・将来性も含めて判断され、クラブ間の戦略的な差別化が進んでいます。
選手登録ルールという“裏側”を理解すれば、補強ニュースやクラブ戦略の発表を読む目も変わるはずです。


